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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(行ツ)343号 判決 1987年3月26日

長野市大字鶴賀権堂町二二三六番地

上告人

株式会社千木良商事

右代表者代表取締役

吉原勝正

被上告人

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の東京高等裁判所昭和五七年(行コ)第四〇号源泉所得税還付請求事件について、同裁判所が昭和五九年九月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は原判決を正解せず若しくは独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高島益郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 四ツ谷巌)

(昭和五九年(行ツ)第三四三号 上告人 株式会社 千木良商事)

上告人の上告理由

第一 原判決は、上告人の主張に対する明らかな判断の遺脱があり 是正を免れない。

原判決は、その事実の摘示に於いて第一審の主張を補正して上告人代表者の陳述として「即ち、本件納税告知処分は、控訴人(上告人)について推計によって計上もれの利益を算出しその利益の処分を訴外吉原勝正(以下、<吉原>という)に対する役員賞与とみなしたものである。しかるに青色申告法人の場合には右推計を行なうことができないのであって被控訴人(被上告人)が本件青色申告処分の取り消しをなした時に於いて損金不算入による前記賞与の認定及びこれに基づく白色申告下の本件納税告知処分も無効に帰するものである」とし、これに対する被控訴人(被上告人)の反論として「控訴人(上告人)が課税標準又は欠損金額を推計されない保証をうけるのは・・・・・法人税の課税標準又は税額を更正される場合であって旧所得税法第三八条により控訴人が徴収すべき吉原の所得税についてまで右保証が及ぶものでない」、という主張を対置している。

この様に全く相反する当事者の主張が展開されているにも拘らず、原判決はその理由に於いて「本件青色取り消し処分が取り消された結果、右脱漏所得の認定に基づく本件更正処分が取り消され、控訴人(上告人)の法人税について推計による課税がなし得ないことになったことは、控訴人(上告人)の主張するとおりである」、と上告人の主張を法人税のみに限るかのように一方的に歪め、青色申告の承認は「吉原の賞与受給による所得税についてまでその効力が及ぶものでない」、とか、賞与の支給の有無その認定については「推計の方法によって認定することも可能」、と述べている。

これらは、明らかに上告人の主張していない事実の認定 あるいは主張事実そのものについては判断せず被上告人の主張を恰も上告人の主張であるかのように誤解したものであり明らかに判断の遺脱としてその是正を免れないところである。

上告人の主張は一貫して青色申告法人の場合には推計による計上もれの利益即みなし役員賞与の推計を行なうことは出来ない、というものであって、観念的に法人税と所得税の二つの異なった法体系に問題を分解しその効力を分断して論ずることは出来ない、というものである。

この上告人の根本的な主張を無視し、これを曲解して被上告人の主張に一方的に偏した原判決には、致命的な判断遺脱の違背がありその是正を免れないところである。

第二 原判決には、重大な審理不尽、理由不備があり且つ判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があり是正を免れない。

法人税第一三一条は、青色申告の場合を除いて推計による更正又は決定をなし得ることを明記している このことは、推計課税は青色申告法人の場合には許されず、白色申告法人の場合に限られることを明確にしたものである。

又、同第一三〇条では、青色申告者に関わる更正は、調査により計算の誤りがある場合に限りこれをすることが出来る、とし計算上の誤りのみの更正を認めているのである。

したがって理由の如何に拘らず、青色申告取り消しの処分の取り消しによって白色申告法人ではなくなった上告人について推計による計上もれの利益も、これを即みなし役員賞与とする推計も存在する余地はない、というべきである。

原判決は、この当然の法理を理解せず「源泉徴収による所得税の納付義務は、賞与の支給という客観的事実に基づいて自動的に生じ確定する」、などと述べているが白色申告ではない本件に於いてはそもそも賞与の支給などという客観的事実は存在せず、あくまで推計による脱漏所得が存在していたにすぎない。

青色申告下では推計による計上もれの利益即みなし役員賞与などというものは存在しえない冷厳な事実をはなれて、又、青色申告法人と白色申告法人の別をこえて「賞与の支給という客観的事実」が恰も存在するかのようにいうのは全くの抽象的な観念・妄想にすぎないものである。

その挙げ句の果てに原判決は、「控訴人(上告人)の吉原に対する賞与の支給の有無その額の認定については、その認定の方法が合理的に認定に誤りがない限り推計の方法によって認定することも可能」、と断じている。

これこそは、最高裁昭和三九・一二・二二判決も明らかにしているように正に白色法人についてのみ通用し得る法理を展開している、といわなければならない。

以上のように存在しない架空の事実を前提にし、控訴人(上告人)の吉原に対する役員賞与の支給の有無及びその額について無用な検討を行ない、第一審判決を懸命に維持しようとしている原判決は、審理不尽・理由不備・判決に影響を及ぼすことの明らかな法人税法第一三一条をはじめとする法令の違背があり、その是正は免れない。

以上

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